店主・平尾光司シェフは厳しいことで知られる名店で修行を重ねて来た。フランス料理の基礎はみっちり学んだ。でもこの点は、そのキャリアをこれ見よがしに披瀝する場ではない。 ......... ここは「本当の自由がある店にしたい」と開いた店だ。だから、堅苦しいことは一切なし。 ......... 日本の店なんだから。日本人好みでいいじゃないか。自分が日常的に行きたい店はそんな店だ、と。
カウンター10席のみ。席幅はゆったりと取られ、窮屈さはない。内装は素っ気ないくらいシンプルだ。 ......... 何気ない内装だからこそ、より強いアクセントになっている。
料理のメニューもワインリストも黒板だ。クレソンのサラダ、子羊のロースト、自家製ソーセージ…… 単純この上なし。余計な添え書きもない。足りないところは口で補う。メニューを見て、なんだよくあるビストロか。そう思うかもしれない。 ......... うわべの小細工がなく、実質本位。それでいて美しい。隠した爪の実力は、皿の上で遺憾なく発揮されている。
......... どの料理にも繊細な味の構築があり、独特のおいしさを醸し出していいる。メニュー名からは想像できない、気持ちの入った丁寧な仕事ぶりだ。
店を切り盛りするのは2人。シェフとワイン担当の原有紀さんだ。シェフは営業中、かなりの集中力で調理に邁進する。だんまりがちである。そこを有紀さんの笑顔が補う。 ......... 2人の絶妙なコミュニケーションが、店の雰囲気を明るい方向への導いている。
上質の料理、コストパフォーマンスのよさ、清々しいサービス。新しい、日本ならではのビストロノミーの誕生である。
DECEMBER 2010 料理通信より